ハイエルフなのに変態で_強炭酸はガラスを穿つ07

 「江原さん、どうして突然、ドライアイスの演出をやろうと言い出したですの?」

 ルドルの問いかけに、江原がため息を一つする。しばらくして意を決したように口を開いた。

「ラムネの瓶を破裂させるため……です」

「江原さん! ……どうして」

 立ち上がった愛奈が、ほとんど叫ぶように、そう問いかけた。途中で気づいて、声が小さくなる。

「お嬢さん、申し訳ありませんでした、ずっと、白状しようとしていましたが、弱い私は結局、真実を悟られまいと、あんな態度をとって……しまって」

 江原は深々と頭を下げる。それを見て、愛奈は元の椅子に力なく座った。そして呟く。

「どうしてこんな事」

 頭を上げて、泣きそうな表情を見せた江原が、深呼吸をした後、話を始めた。

「社長はいつも採算を度外視した物を作っていました、お客様を笑顔にするためです、私はそういう社長が好きでした、でもいつしか理想と現実はかけ離れていって、会社の経営は傾き始めていました、そんな時に瓶のラムネを作ると社長は言いました、いつもの調子で、この商品で親は懐かしさ、子供は逆に新鮮で大喜びだって、私も、このアイデアには、もしかしたらと思いました、でもその時はもう、そのもしかしたらに賭けるほどの余裕さえ、この会社にはありませんでした、止めなければ、この会社はもう危なかった、でも社長はそれでも、みんなを笑顔にするために、と言って聞いてくれなかった……倒産すれば従業員は路頭に迷う、大切な笑顔は失われるんだ」

 そろそろ夏になってきて、暑くなってきていた。猫探しを終えた茉姫とルドルは、暑さにヘロヘロになりながら、事務所に帰ってきた。

「あっっですの、この世界は滅ぶですの? 終末の暑さですの」

「まだ、こんなもんじゃないよ」

「あぁ、滅ぶですのね、この世界は」

 あながち、間違いじゃないかもしれない、と茉姫は思う。温暖化現象が進んでいるのだ。

「とりあえず、あれを飲ませろですの」

 ルドルが茉姫に催促する。苦笑しながら茉姫は冷蔵庫から、瓶ラムネを二本取り出して。一本をルドルに渡そうとして、寸前で止める。

「苦いとか、辛いとか言ってたくせに」

「うるせぇですの! 早く、早くそれを渡しやがれですの!」

 キメてラリってる奴が、クスリをせがむ様な必死さでルドルが瓶ラムネに手を伸ばしてる。

「どういう言い方されるとなぁ」

「申し訳ありませんですのぉ、茉姫さま、どうか、どうか、それを早く飲ませてくださいですの」

 エルフにとってラムネは中毒性の高いクスリなんだろうか。茉姫はそんな事を思いながら、ラムネを渡す。

「あぁ、ありがとうですの!」

 二人でラムネのフタを開けると、クイっと喉を潤す。

「ぷはぁぁぁぁですの!」

「ぷはぁぁぁぁ」

 二人そろってはしたない声をあげる。ふと茉姫は瓶に貼ってあったラベルを見る。水滴を拭うと愛の音製菓の文字が見える。

「乾杯するですの」

 ルドルがふいにそんな事を言った。すでに二人とも、ラムネは半分になっている。

「普通、最初にやるもんだよ」

「うるさいですの」

「まぁいいや、何に乾杯するの」

「愛の音製菓の門出に」

 ルドルはそう言って、瓶ラムネを前に突き出す。

「なるほどね……愛の音製菓の門出に」

 茉姫はルドルの突き出した瓶ラムネに、自分の瓶ラムネを当てた。いろんな愛の音が混じり合った、美しい音が祝砲の様に響いた。


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コメント

  1. ミステリー挑戦お疲れ様でした!
    久しぶりに瓶ラムネ飲みたくなりました!

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