田舎というほど田舎ではなく、都会というほど都会でもない、中途半端な街の一角にある建物。一階には犬猫用のカットハウスが。二階には居黒探偵事務所がある。住居も兼ねたその事務所の寝室には、美女が気怠そうにベッドから立ち上がっていた。 「ふぅぅぅん……ですの」 寝起きのけだるさを、取り去るようにアクビを一つすると、美女はキラキラと、キレイな銀髪を整える為に手櫛を入れた。緩くウェーブのかかった銀髪から、チラリと少し長めのとんがった耳が見える。普段は髪に隠れて見えない耳は、彼女がこの世界に来てから、意識的に髪で隠すようになった。この世界では異質の存在、ハイエルフという種族であるため。バレればあまり良い事がないという判断だった。 彼女は寝間着代わりの、空色のカッターシャツに、黒のロングスカートを履く。それから、自らが起き出したベッドに潜り込んでいる、もう一人に声をかけた。 「起きるですの」 その声に、なんの反応も示さずグッスリと寝ている、もう一人の身体を揺らしながら、もう一度、声をかける。 「起きるですのぉ……無防備に寝てるとエッロイ事しちゃうですの」 「ひっ!」 異様な気配を感じて、もう一人は目を覚ます。ベッドから素早く飛び出して、警戒するように構えた。 「冗談ですの」 クスクスと笑う美女を、しばらく警戒していたもう一人は、ため息をついて、警戒を解く。 「驚くわ……おはよ、ルドル」 「おはようですの、茉姫」 ルドルは銀髪をなびかせて部屋を出ていく。茉姫がその姿を見送る。見惚れていた、と言ったほうが正しいか。 「くっそ、キレイだな」 茉姫はそうつぶやくと、寝間着代わりの、白のカッターシャツに、黒のジーンズを履いて部屋を出た。 二人は今日も探偵稼業に勤しむ。 ※ 相変わらず、ウィスキーボトルに入れた麦茶を、茉姫はコップに注ぐ。 「キクね! ジャック君は!」 ただの麦茶を飲みほして、茉姫は言った。毎朝恒例の決め台詞を、ルドルはスルーして、茉姫に予定を確認する。 「今日も犬猫探しですの?」 「そうだよー」 茉姫はため息とともに、言葉を吐き出した。基本的に、下の階のペット用カットハウスの、常連のペット探しが主だった。金持ち達の、大いに甘やかされたバカ犬やバカ猫は、よく脱走するのだ。しかも、放っておけばいいものを、わざわざ大金はたいて、捜索を探偵に依頼する...
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