探偵事務所の朝は早い。ここ居黒探偵事務所も例外ではない。住居も兼ねている、この事務所の奥にはベッドルームがあり、そこから一糸まとわぬ姿の女が、眠そうな表情を浮かべて出てきた。女は肩甲骨に少しかかるくらいの黒髪を揺らしながら、給湯スペースに向かう。揺れているのが髪だけじゃないか、描写不足だと、怒らないでいただきたい。この女に揺れる胸など無い。無い胸は揺れないのだ。 給湯スペースの冷蔵庫を開けると、ジャックダニエルのラベリングされた瓶がある。女がそれを取り出し、同時に食器棚のウィスキーグラスを掴み取ると、事務所エリアに戻る。 「ふあぁぁぁ」 アクビをかみ殺しつつ、女はグラスに琥珀色の液体を並々注ぐ。琥珀色が揺らめく、そのグラスを持ち上げ、朝日に照らして色の変化を楽しんだあと、飲み干した。 「くぁぁぁ、キクね、ジャック君は」 麦茶である。この女、煮出した麦茶を、わざわざウィスキーボトルに入れたのだ。探偵はバーボンかウィスキーを、ハードボイルドに嗜むものだと、若干偏った信念を持っているせいだった。 「さぁて、今日も命がけの探偵稼業に勤しむか!」 ちなみに、今日は迷子の猫と犬を探す依頼しかない。昨日までも、そんな類の依頼しか来ていない。命が危険にさらされたことなど、一度もない。地元で有名なワンニャン探偵(笑)と呼ばれている。または少年探偵wである。 この妄想癖があり、煮出した麦茶を、ウィスキーボトルに入れて喜んでいる、貧乳の残念な感じの女は、居黒茉姫(いぐろまき)。職業は探偵で、ここ居黒探偵事務所の主をしている。 ※ 茉姫は依頼された猫探しと犬探しを、両方とも今日で片付けてしまおうと考え、朝早くに起きた。探偵らしからぬ仕事に、不本意を感じつつも、生活のために迷子のペット探しは断れない。ペット社会のおかげで需要が多い、その上、上手くいく仕事だ。となると、希望に沿わなくても、やらざる負えない。生活のため。なんと悲しきさだめかな。 それもこれも、どういう訳か動物に好かれる体質のせいだ、と茉姫は思った。犬と猫ばっかりで、もっとこう、探偵らしい仕事がほしい。体質ならトラブルを呼び込んで、解決できるなんて都合のいい名探偵体質がいい。 「服着よ」 とりあえず茉姫は、全裸でいるのも、なんだか恥ずかしいと思い、服を着始める。裸で寝るのは、ハードボイルドっぽいと思ったが。なん
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