ハイエルフなのに変態で_強炭酸はガラスを穿つ06

  茉姫とルドルは事務所へと帰って来る途中だった。当事者に話を聞いたが、有益そうな情報は得られなかったのだ。怪しい人物はいなかった。破裂した瓶に近づいた人がいたかどうか、覚えていない。当日に江原がいきなりドライアイスを使って演出しようと言い出した。こんな話しか聞けていない。茉姫はため息をつく。犬猫探しはすんなりいくのに、こういう調査は上手くいかない。茉姫はワンニャン探偵(笑)への自分の適性を思い知る。

「ちょっと、あんたら」

「え?」

 二人が事務所への階段を上がろうとしていた所、一階のペットカットハウスから声が聞こえた。

「これ! あんたの依頼人がお礼だって」

 カットハウスの女主人牧原がそう言って、紙でできた箱を渡してきた。

「依頼人ってどっちの?」

「小次郎君のだよ……アイスクリームだってよ」

 犬猫探しの依頼で捕まえたペットは基本的に、このカットハウスに預けている。茉姫たちも不在の場合が多いし、ペットを一時的に預けるなら、こっちの方がいいだろうという、茉姫の判断だった。

「これ高そうだねぇ」

 茉姫がゲス顔でそう言う。金持ちは金銭感覚がバカだから、こういう物はケチらない。そういう物だと茉姫は知っていた。

「ありがとねぇ!」

 そうお礼を言った茉姫は、足早に事務所への階段を上がる。ルドルもそれに続いた。事務所に入ると早速、茉姫が箱を開ける。ルドルもそれを覗き込んだ。

「なんですの?」

「アイスはまだ未体験だったか……炭酸ジュースよりわかりやすいよ」

「ほぉですの」

 興味がそそられたらしくルドルが嬉しそうに箱の中をじっと見つめる。すると、入っていたドライアイスに気付き「なんかモヤモヤですの」と言って、触ろうとする。

「危ない、触ったらダメ」

「危ないですの?」

「これはドライアイスって言って、冷たくて、触るとケガするよ」

「ですの!」

 そう言って、ルドルは一歩後ずさる。

「そんな物に、あなたは喜んでいたですの?! 頭おかしいですの」

「おかしくねぇわ! ドライアイスは冷却用で、私が喜んでいた物はこっちのアイスクリーム」

 茉姫が箱の中のカップアイスクリームを一つ取り出して見せる。コンビニとかでも売ってるところを見た事がない様なアイスだった。これは期待できそうと茉姫は顔が緩む。

「ですの……そのどらいあいす? は何なんですの?」

 ルドルは食べ物よりもドライアイスに興味を持ったようで、また近づいて、箱の中を見る。ルドルは時たま食欲より知的好奇心を取る時がある。勉強熱心と言ったらいいのか、茉姫はそんな事を思いながら、ドライアイスの知ってる限りの説明をしてやった。

「……あぁ、あとドライアイスを水に入れて、振ると炭酸ジュースが作れるって聞いた事あるなぁ、これも二酸化炭素の……どうしたの?」

 ルドルが突然、目を見開いて何かに驚くような表情をしている。そのまますぐに何かを考えるように目を細めて、ウロウロと歩き始めた。

「ルドル?」

「謎が解けたですの……愛奈に連絡とってほしいですの、愛の音製菓に明日にでも行くですの」

 次の日、茉姫とルドルは愛の音製菓に訪問していた。前に話しをした所に座る。途中で江原を発見したルドルが「あなたも一緒に居てくださいですの」と無理やり連れてきた。

「なんでしょうか、忙しいのですが」

 嫌味たらしい口調で江原が言った。隣にいる愛奈が申し訳なさそうに体を縮こませる。茉姫はルドルを見た。昨日、謎が解けたといった。教えてほしいと言ったけど、一向に話してくれなかった。茉姫は何も知らされていないのだった。

「三年前のラムネ爆発の事件の謎が解けたですの」

 ルドルがそう言うと、江原が眉間にしわを寄せて、明らかに機嫌を損ねたような声で言った。

「……事故でしょう、あれは」

「違ったですの、あれは人為的に爆発させられたですの」

 愛奈が驚いた様子で「何があったんですか」と急かすように聞く。

「今話すですの……まずはラムネを爆発させた方法ですの」

 一度、息を吸ってルドルが話を始める。

「方法は簡単ですの……ラムネのビー玉を押して、フタを開けるですの、それから、ドライアイスを入れるですの……ドライアイスはどういう物かは知ってると思うのですの、ここで注目なのがドライアイスは溶けるとブワッとなるですの……それで膨張する、あとは瓶を傾けるかして、ビー玉をフタの所まで持っていけば、膨張でビー玉の栓が未開封の様に閉まるですの、あとは放置して、爆発を待つですの」

 茉姫は頭の中でその映像が衝撃の様に流れた。すぐさまスマホで調べてみる。ドライアイス爆弾そういう名前でネット上に沢山情報が転がっている。

「ドライアイスも、炭酸ガスも二酸化炭素、成分を調べても、炭酸ガスの入れすぎと判断される可能性が高い」

 愛奈が驚いたようにそう言った。火薬のような物を使っていないのだから、そう判断される可能性は高いだろう。思えば簡単な事だった。茉姫もインターネットで調べればわかったかもしれない。茉姫はルドルの顔を見る。このエルフはそういう助けを一つも借りずに、自力で考えてここまでたどり着いたのか。探偵と名乗っているのは自分なのに、そう茉姫は悔しい思いで胸をもたげる。

「じゃあここで質問ですの」

 ルドルが微笑んでそう言った。


強炭酸はガラスを穿つ07へ続きます。

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