ハイエルフなのに変態で_強炭酸はガラスを穿つ03
愛奈の強い思いが、感じられる言葉だった。ルドルが茉姫の肩に手を置く。
「ちょっと聞きたいですの……その発表会に来ていた外部の人を、疑っているですの?」
「……はい、そういう事になります」
事故ではないという事は、誰かがやったという事。つまり疑わないといけない。
「そういう事、しそうな人はいるですの?」
ルドルの言葉に、愛奈は悲しい表情をする。
「……いないです、いい人ばかりで」
「……それに、外部だけじゃなくて、従業員が故意に、破裂させた可能性もあるですの」
「……そうですね」
茉姫はルドルの言いたい事が、なんとなくわかる。
「あなたにとって、悲しい結果になるかもですの……わかってるですの?」
「はい」
パン、と茉姫は自分の太ももを叩いて「それならいい」と笑う。
「受けるよ……どっかの悪人がやったって、可能性もあるしね」
「ありがとうございます!」
※
今日の所は愛奈を返して、また連絡するという事にした茉姫は、現在入っているペット探しのために、ルドルと街をうろついていた。
「まさかこんな探偵っぽい依頼が来るなんて! こういうの待ってたんだよ!」
茉姫はジワリと、驚きとか喜びが来るタイプで、今になって喜び始める。
「私が来てから、猫と犬ばっかりですの」
慣れた様子でルドルが、茉姫を眺めながら言った。すでに異世界からやってきたエルフなんていう、ファンタジー存在な雰囲気は微塵もなく、平然と現代の街をルドルは歩く。最初の頃は、いろんな物にビビりながら歩いていたのに、と茉姫は思いつつ、先ほどの約束を思い出す。
「ラムネ飲ませてあげる約束だったね」
目の前にコンビニが見えて、茉姫はそちらに向かって歩き出した。飲み物コーナーで、ペットボトルのラムネを見つけて購入すると、外に出てルドルに渡した。
「らむね……ですの」
「最初に言っとくけど、驚くと思うから気を付けて」
茉姫の言葉にルドルが頷く。ペットボトルは、すでに体験済みのルドルは、迷うことなく開封した。プシュッと炭酸が漏れる音がする。
「ですの!」
驚いたルドルは、ビクリと体を強張らせて、そう言った。しばらく様子を伺うように、ペットボトルの中をのぞいていたルドルが、ゆっくりと口にラムネを流し込む。
「苦ッ?! ?! 辛ッ?? ……甘い気がするですの」
顔全体に、ハテナマークが浮かんでいるルドル。混乱しているらしかった。クスクスと笑ってしまう茉姫。それを見て、ルドルはちょっと怒ったように言った。
「わけわからんですの」
「慣れると、なぜかおいしいんだよ」
慣れていないと、炭酸の刺激を、辛味とか苦味に勘違いする。茉姫も子供の頃、初めて飲んだ炭酸ジュースを、ルドルのように評価した。ペットボトルを開けた茉姫が、クイクイッとラムネを飲む。
「ぷはぁ」
「よく飲めるですの……口とか喉がチクチクするですの」
「だから慣れだよ……刺激が癖になるのよ」
ニヤリと笑った茉姫を見て、ルドルが一度ため息をして、もう一度ラムネを口に含んだ。
「それでどうするですの?」
ラムネを飲みながら、二人でキョロキョロ、挙動不審に見えなくもない動きをしながら、移動しているとルドルが茉姫に聞いた。
「犬はひたすら探すのが……」
「そっちじゃないですの! らぬね……?? らむね事件ですの」
「あぁそっち?」
「当たり前ですの!」
怒った様子でルドルが言う。それほどラムネ事件に興味があったか。と茉姫はフムフムと頷く。
「だがしかし! 探偵たるもの、どんな依頼もきちっとこなすのが……」
「うるさいですの! この子猿!」
怒りが、頂点に達したらしいルドルが、茉姫の頭をはたく。
「何すんだこの変態!」
二人は路上だという事を忘れて、はたき合いを始めた。
「えー、ただいま通報のあった不審者二名と接触、職質中、不審者情報との照合願う」
制服を着た警官が一人、茉姫とルドルに背を向けて、無線で通信している。
「それで君たち、何してたの? ん? 仕事は?」
「やだなぁ、おまわりさん、そこで探偵やってる者でぇ、今仕事中でぇ」
茉姫が、媚びるような甘えた声で、事情を聞いてくる警官にすり寄った。
「そうですのぉ、仕事中ですのぉ」
ルドルも、茉姫と同じように、警官にすり寄る。警官は茉姫とルドルの顔を手で押さえ、それ以上近づいてこないようにする。
「ふーん、で、何してたの? 君の方は前も通報あったよね? ちょっとゆっくり話できるとこ行こうか? ん?」
「いやぁぁ、それはちょっとね? 私たちは探偵としての正義について議論してたら、熱くなっちゃって……それだけですよぉ」
「そうですの……正義について熱く議論してたですの」
二人と警官の攻防が続く。
※
「危なかったですの」
「危なかった、時と場合を考えないと」
ほとんど無理やりに、警官の職質を振り切ってきた二人は、かなり移動してきていた。事務所に戻ろうと茉姫は思ったが、ペット探しを早く終わらせなければ、ラムネ事件に取り掛かれない。だから危険な警官がうろつくなか、ペット探しの続行する事にした。
「プロとして受けた依頼はちゃんとやる……ペット探しでもね」
茉姫がそう言うと、ルドルは少しシュンとして「わかったですの」と呟く。我ながら真面目だと茉姫は自嘲する。常日頃から、ペット探し以外のすごい依頼を求めているのに、今あるペット探しを放り出して、ラムネ事件に行こうと思わない。
「まぁ探しながら、これからの事を考えよう」
「ですの」
「これからどうするかだよね……愛の音製菓に行って、新作発表会が行われた場所に行って」
「話を聞くですの?」
ルドルがそう聞くと、茉姫は頷いた。
「あとは記録とかあれば……ビデオなり写真なりあるでしょ、新作発表会だし」
「びでお? しゃしん?」
首を傾げるルドル。
「まぁ、目の前の光景を、そっくりそのまま、残せる物かな」
「……そうですの」
ルドルは聞くだけ聞いて、あまり関心がなさそうに、そう呟いた。なんとなく茉姫は心配になる。なんか変というか。心ここにあらずな感じ。それを茉姫は、ルドルにそれとなく訊ねる。すると。
「らむね事件……なんだか、人為的な気がするですの、怪しい感じですの」
コメント
コメントを投稿