ハイエルフなのに変態で_強炭酸はガラスを穿つ03

  愛奈の強い思いが、感じられる言葉だった。ルドルが茉姫の肩に手を置く。

「ちょっと聞きたいですの……その発表会に来ていた外部の人を、疑っているですの?」

「……はい、そういう事になります」

 事故ではないという事は、誰かがやったという事。つまり疑わないといけない。

「そういう事、しそうな人はいるですの?」

 ルドルの言葉に、愛奈は悲しい表情をする。

「……いないです、いい人ばかりで」

「……それに、外部だけじゃなくて、従業員が故意に、破裂させた可能性もあるですの」

「……そうですね」

 茉姫はルドルの言いたい事が、なんとなくわかる。

「あなたにとって、悲しい結果になるかもですの……わかってるですの?」

「はい」

 パン、と茉姫は自分の太ももを叩いて「それならいい」と笑う。

「受けるよ……どっかの悪人がやったって、可能性もあるしね」

「ありがとうございます!」

 今日の所は愛奈を返して、また連絡するという事にした茉姫は、現在入っているペット探しのために、ルドルと街をうろついていた。

「まさかこんな探偵っぽい依頼が来るなんて! こういうの待ってたんだよ!」

 茉姫はジワリと、驚きとか喜びが来るタイプで、今になって喜び始める。

「私が来てから、猫と犬ばっかりですの」

 慣れた様子でルドルが、茉姫を眺めながら言った。すでに異世界からやってきたエルフなんていう、ファンタジー存在な雰囲気は微塵もなく、平然と現代の街をルドルは歩く。最初の頃は、いろんな物にビビりながら歩いていたのに、と茉姫は思いつつ、先ほどの約束を思い出す。

「ラムネ飲ませてあげる約束だったね」

 目の前にコンビニが見えて、茉姫はそちらに向かって歩き出した。飲み物コーナーで、ペットボトルのラムネを見つけて購入すると、外に出てルドルに渡した。

「らむね……ですの」

「最初に言っとくけど、驚くと思うから気を付けて」

 茉姫の言葉にルドルが頷く。ペットボトルは、すでに体験済みのルドルは、迷うことなく開封した。プシュッと炭酸が漏れる音がする。

「ですの!」

 驚いたルドルは、ビクリと体を強張らせて、そう言った。しばらく様子を伺うように、ペットボトルの中をのぞいていたルドルが、ゆっくりと口にラムネを流し込む。

「苦ッ?! ?! 辛ッ?? ……甘い気がするですの」

 顔全体に、ハテナマークが浮かんでいるルドル。混乱しているらしかった。クスクスと笑ってしまう茉姫。それを見て、ルドルはちょっと怒ったように言った。

「わけわからんですの」

「慣れると、なぜかおいしいんだよ」

 慣れていないと、炭酸の刺激を、辛味とか苦味に勘違いする。茉姫も子供の頃、初めて飲んだ炭酸ジュースを、ルドルのように評価した。ペットボトルを開けた茉姫が、クイクイッとラムネを飲む。

「ぷはぁ」

「よく飲めるですの……口とか喉がチクチクするですの」

「だから慣れだよ……刺激が癖になるのよ」

 ニヤリと笑った茉姫を見て、ルドルが一度ため息をして、もう一度ラムネを口に含んだ。

「それでどうするですの?」

 ラムネを飲みながら、二人でキョロキョロ、挙動不審に見えなくもない動きをしながら、移動しているとルドルが茉姫に聞いた。

「犬はひたすら探すのが……」

「そっちじゃないですの! らぬね……?? らむね事件ですの」

「あぁそっち?」

「当たり前ですの!」

 怒った様子でルドルが言う。それほどラムネ事件に興味があったか。と茉姫はフムフムと頷く。

「だがしかし! 探偵たるもの、どんな依頼もきちっとこなすのが……」

「うるさいですの! この子猿!」

 怒りが、頂点に達したらしいルドルが、茉姫の頭をはたく。

「何すんだこの変態!」

 二人は路上だという事を忘れて、はたき合いを始めた。

「えー、ただいま通報のあった不審者二名と接触、職質中、不審者情報との照合願う」

 制服を着た警官が一人、茉姫とルドルに背を向けて、無線で通信している。

「それで君たち、何してたの? ん? 仕事は?」

「やだなぁ、おまわりさん、そこで探偵やってる者でぇ、今仕事中でぇ」

 茉姫が、媚びるような甘えた声で、事情を聞いてくる警官にすり寄った。

「そうですのぉ、仕事中ですのぉ」

 ルドルも、茉姫と同じように、警官にすり寄る。警官は茉姫とルドルの顔を手で押さえ、それ以上近づいてこないようにする。

「ふーん、で、何してたの? 君の方は前も通報あったよね? ちょっとゆっくり話できるとこ行こうか? ん?」

「いやぁぁ、それはちょっとね? 私たちは探偵としての正義について議論してたら、熱くなっちゃって……それだけですよぉ」

「そうですの……正義について熱く議論してたですの」

 二人と警官の攻防が続く。

「危なかったですの」

「危なかった、時と場合を考えないと」

 ほとんど無理やりに、警官の職質を振り切ってきた二人は、かなり移動してきていた。事務所に戻ろうと茉姫は思ったが、ペット探しを早く終わらせなければ、ラムネ事件に取り掛かれない。だから危険な警官がうろつくなか、ペット探しの続行する事にした。

「プロとして受けた依頼はちゃんとやる……ペット探しでもね」

 茉姫がそう言うと、ルドルは少しシュンとして「わかったですの」と呟く。我ながら真面目だと茉姫は自嘲する。常日頃から、ペット探し以外のすごい依頼を求めているのに、今あるペット探しを放り出して、ラムネ事件に行こうと思わない。

「まぁ探しながら、これからの事を考えよう」

「ですの」

「これからどうするかだよね……愛の音製菓に行って、新作発表会が行われた場所に行って」

「話を聞くですの?」

 ルドルがそう聞くと、茉姫は頷いた。

「あとは記録とかあれば……ビデオなり写真なりあるでしょ、新作発表会だし」

「びでお? しゃしん?」

 首を傾げるルドル。

「まぁ、目の前の光景を、そっくりそのまま、残せる物かな」

「……そうですの」

 ルドルは聞くだけ聞いて、あまり関心がなさそうに、そう呟いた。なんとなく茉姫は心配になる。なんか変というか。心ここにあらずな感じ。それを茉姫は、ルドルにそれとなく訊ねる。すると。

「らむね事件……なんだか、人為的な気がするですの、怪しい感じですの」


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